阿佐海岸鉄道では、2020年までにDMV(デュアル・モード・ビークル)の運行に対応できるよう、DMV専用線化への計画が進んでいます。
DMVといえば、かつてJR北海道が新たな鉄道の活用策として試験を繰り返していた、線路と道路の両方を走れる車両です。釧網本線を中心に乗客を乗せての試験運転を繰り返していましたが、2016年の北海道新幹線開業を機に実用化を断念してしまいます。限られた経営資源を新幹線に向けて注力するためと当時言っており、このとき285系気動車というこれまでよりも車体傾斜角度を大きくしたハイブリッド傾斜車両の開発および試験車両の検測車への改造も断念しています。
しかしDMVの試み自体は決して悪くないものであり、地方の第三セクター線を中心に試験車両として貸し出されていました。明知鉄道や岳南鉄道なんかがそうです。しかしどこもまだ実用化には至っていません。そんなDMVが、とうとう営業を始める見通しとなりました。
徳島と高知の県境付近を走る阿佐海岸鉄道・阿佐東線。国鉄阿佐線として、今は土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線となっている路線と共に室戸半島を横断する路線として計画されていましたが、東側の阿佐東線はわずか2駅間だけが弾三セクター鉄道として開業するにとどまりました。私も一度乗りましたが、非常に寂しい場所で車両も検査時の予備を含めて2両で十分という鉄道会社です。
そんな阿佐東線にDMVを走らせるというのです。しかも阿佐東線区間だけでなく、JR四国の牟岐線に一駅だけ、阿波海南まで乗り入れることになります。現在、牟岐線と阿佐東線の接続駅である海部駅で一部の直通列車を除いて乗り換えることになりますが、阿波海南で牟岐線の線路を完全に分断してしまい、阿波海南~海部~甲浦をDMV専用の線路にしてしまう計画です。
私が牟岐線・阿佐東線を乗りに行ったとき、徳島から朝の始発列車で下っていったのですが高校生の利用が多く非常に混雑してしましました。しかし、阿波海南でほとんど全ての乗客が降りてしまい最後の1駅はほぼ貸切状態でした。海部高校が阿波海南駅の近くにあるのでみなそちらへ行ってしまうのです。そういった事情も考えると、阿波海南で分断するというのは利用形態にあった形だとも言えます。阿波海南は高架駅の海部と違って地平駅なので取り回しがしやすかったという事情もあるでしょう。
甲浦も高架駅ですが、地面に降りるためのアプローチ道路(線路?)が新たに建設されるようで、そのまま室戸岬の方へバスとして運行する形になります。
▲海部駅といえば、一見無意味に見えるトンネルが有名です(もともと山があったけれど削られて宅地になってしまっただけ)。
北海道がDMVの導入を断念した一番の理由は開発費が捻出できなくなったことですが、ある程度形にできたとしても実際に運行した場合の効果はあまりなかったかもしれません。というのも、結局線路を捨てて道路にしなければ維持費は減らないからです。その一方で阿佐東線に導入が決まったのは、そもそも鉄道の区間が極めて短く、先の区間へバスとして直通できるメリットが大きいからでしょう。現状、室戸岬へ向かうには普通列車の場合海部と甲浦で2度乗り換える必要がありますが、DMV化後は阿波海南の1回の乗り換えだけで済みます。しかも海部は対面ホームなので乗り換えの際には線路を横切ることになりますが、計画では阿波海南では同一ホームで乗り換えができます。
しかしまぁ、本末転倒なことを言ってしまうと最初から鉄道なんてなくて、阿波海南までバスで行った方が良いのかもしれません。けれど鉄道を作ってしまった以上、やはり設備を使わないのは非常にもったいないことですからあるものを使うに越したことはありません。県境区間の道路は山がちで細く急なので、線路があるメリットもそれなりにはあるでしょう。
小さな鉄道路線が今後の生き残りをかけて大転換を図るわけです。まだ完成後の全貌は見えていませんが、これから注目が集まっていくことでしょう。