前の記事で、大阪市営地下鉄が民営化し大阪メトロになるということに触れました。
東京の営団地下鉄も「東京メトロ」となったわけですが、地下鉄が「メトロ」となるのは非常に自然なことだったと思われます。「メトロ」というのは、世界的に地下鉄、都市高速鉄道の名称として世界標準だからです。
しかし、多くの人は、地下鉄は英語で「subway」(サブウェイ)と習うことでしょう。直訳すると「側道」ですが、ファーストフード店の名称に使われていることもあり日本人にも浸透していると思います。
ところが、英語とは言ってもsubwayというのは米国英語。イギリスではundergroundと呼ばれます。しかし、不思議なことに同じイギリスでもundergroundと呼ばれているのは首都ロンドンの地下鉄。スコットランドのグラスゴーにある地下鉄はなぜか米国英語と同じくsubwayと呼ばれています。
subwayでもundergroundでもなく「metro」。パリもモスクワも、地下鉄はmetroです。東京も、そして大阪もmetroになります。一体、このmetroというのはどこから来たのでしょうか。
metroとは、metropolitan、すなわち「大都市」を意味する英語から来ています。つまり地下鉄のことを「大都市」と呼んでいるのです。不思議なことですが、確かに地下鉄というのは都市内の高速鉄道として世界中で広まっていきました。「高速鉄道」という言い方をすると「地下鉄のどこが高速なんだ!」と言われてしまいそうですが、ここでいう高速鉄道に対する「低速鉄道」というのは市電、つまり路面電車のことで、路面電車に比べると地下鉄は高速なので「高速鉄道」ということになったのです。決して新幹線のことではありません。同じ理由で、モノレールにも高速鉄道と呼ばれているものがあります(大阪モノレールや北九州モノレール)。
ですが、地下鉄のことをmetroと呼ぶようになったのは、大都市に建設されることが多かったからではありません。鉄道発祥の国イギリスの、地下鉄発祥の地ロンドンにあった鉄道会社の名前から来ています。
メトロポリタン線。ロンドン中心部のAldgate駅と北西の郊外にあるUxbridge駅を結ぶ地下鉄路線です。ラインカラーが紫色の路線ですね。かつてメトロポリタン鉄道という会社が運行していたことからこの名前がつきました。かつての会社名が路線名になったものとして、ほかにディストリクト線があります。それぞれ日本語に訳すと「大都市線」「地区線」というなんとも変な名前ですが、会社名から来ている事情があるんですね。
ロンドンの地下鉄自体はundergroundと呼ばれています。しかし、この「地下に建設する都市高速鉄道」が英語圏ではない諸外国に広まっていくにつれ「metro」という名前で認識されていったのです。言ってみれば、ステープラーのことを「ホッチキス」、木工用接着剤のことを「ボンド」、コピー機のことを「ゼロックス」と呼ぶようなものです。本来特定の会社の商品を差す固有名詞だったものが他社の商品も含めて呼ばれる一般名詞へと変化していったのです。
由来となったロンドンでは使われることはなく、けれど世界中に浸透していったというのは興味深い結果ですね。初の高速鉄道として誕生した新幹線の名称が世界に広まって、「高速鉄道=Shinkansen」と呼ばれていたら……そんな感じなのでしょうか。高速鉄道は、TGV、ICE、AVE……と国によってそれぞれ独自の名称がつけられています。
大阪の地下鉄は、他国のメトロに引けを取らない路線網を持っています。「大阪メトロ」として、これからも末永く市民の足として続いてほしいものです。