麻雀漫画の「咲」にちらっと登場した粕渕という高校

全世界の麻雀競技人口が10億人を越え、全国の女子高校生が頂点を目指し夏の大会に挑む……。というのが「咲」のストーリーです。原作の漫画のほかアニメ化もされ、つい最近では実写化もされています。

夏の大会というのは高校野球における甲子園みたいなものなのですが、東京・有楽町にある国際フォーラムを舞台に開かれています。麻雀はわざわざ屋外でやる必要はないですからね。野球の甲子園と違うのは、出場校数が52校だということ。

甲子園では47都道府県に加え、北海道と東京が2分割にされ全部で49校が出場します(記念大会は別)。一方咲では52校なのは、北海道や東京に加え大阪、愛知、神奈川も分割されているためです。

今年(今年がいつなのかは分かりませんが)でこの「全国高等学校麻雀選手権大会」は第71回目らしいのですが(甲子園はもうすぐ90回ですね)、この71回大会の出場52校は全て校名が出ています。漫画やアニメの設定なんて必要なところしか描かれないことの方が遥かに多いのですが、細かい設定が決まっていることには感動しますね。

作者の方が全部名前を考えたのだとしたら、旅好きなのか地理好きなのか、とにかくなかなか詳しい人だと言えます。どの学校の名前も何かしら実際の地名に即しているんですよね。それともう一つ大事なことなのですが、「実際にある高校の名前と同じではいけない」という制約があります。実在する高校も大半は地名が由来なので、適当に「地名+高校」で作ってしまうと被ってしまう危険があります。編集部のチェックもあったことでしょうし、だいぶ工夫されたことと思います。

といっても名前がどこかしらで出てくる高校は半分もないですし、キャラクターが一人でも登場する高校といえば東西東京、福岡、埼玉、岡山、福島、奈良、富山、南北大阪、鹿児島、岩手、長野、広島、岐阜、石川、南北海道の17校だけなんですけどね。ちなみに主人公の咲の高校は長野です。

そのトーナメント表の一番左上にあるのが2年連続で優勝していた西東京の高校で、主人公の姉が在籍しているとされている学校なのですが、その下に島根県代表として「粕渕」という名前が書かれています。同じブロックに準決勝まで進んできた福岡県の高校があるので恐らく初戦であっさり負けてしまった高校だと思うのですが、この粕渕という地名に思うところがあるのです。

「咲」で島根というと関連作品の「シノハユ」を思い出しますが、あちらは松江を舞台とした出雲側の話。粕渕は全く関係なく、石見側にあります。粕渕という名前を知ってると、「あんなところに高校あるわけねーよ!」と言ってしまいたくなる、そんな場所なのです。

そう、3月末を以って廃線になるあの三江線沿いにあるのです。

三江線・粕淵駅。粕渕というのは実在する地名ですが、駅名は字が変えられていて粕”淵”となっています。

実はこの粕淵駅、町の中心となる駅で、ほとんど利用者のいない三江線の中では割と使われている方な駅なのです。鉄道好きにとっては、運行上の拠点だということがあり隣りの浜原の方がはるかに名が知られていると思いますが、浜原は中心駅ではないんですね。

三江線の途中駅で有人の駅、近くにコンビニがある駅はどちらもそれぞれ2つしかないのですが、粕淵はその両方に当てはまります(もう1つの有人駅は石見川本、コンビニがある駅は川本の隣りの因原)。といっても簡易委託駅なのですが。入場券を売っているので記念に買っていく人もいますし、私も買いました。補充券も扱っているようです。

駅舎は商工会館を併設した、比較的新しいものとなっています。かつては浜原とほぼ同じ形の駅舎があったようです。線路は1面1線しかありませんが、かつては島式で1面2線だったようです。今のホームからもその名残が見えますが、線路のあった場所は駐車場などに転用されています。三江北線では貨物列車が運行されていましたから、この駅でも貨車の取扱をやっていたのでしょうね。

粕淵があるのは美郷町という町。かつては邑智(おおち)町と言っていました。駅から役場やコンビニのある中心部までは歩いて10分弱ほどかかります。で、来る前までは「こんなところに高校なんてねぇよなぁ~」と思っていたのですが、実はあったのです。と言っても、過去形なのですが……。

両端の江津と三次を除いた三江線の沿線で、高校があるのは川本町の島根中央高校しかありません。最寄り駅は石見川本です。松江や出雲市でもないのに「島根中央高校」なんてずいぶん仰々しいなぁ~と思っていたのですが、統合されたためにこんな名前になったようなのです。元々川本にあったのはそのまま川本高校で、この美郷町に邑智高校というのがありました。その2校が統合し、校舎は川本のものを利用、美郷町内からは高校がなくなることになりました。それが2009年のことです。実はこの写真の邑智町役場の裏手に見えている建物、これがかつての邑智高校の校舎なのです。閉校となったあと改装されて、今は中学校が移転してきています。

まぁ高校がなくなってしまうような場所ですから、「こんなところに高校あるわけないよなぁ~」というのもあながち間違いではありませんが。町内から高校がなくなってしまった今粕淵から高校に通うには、石見川本まで三江線を利用して行きは粕淵6:24発か7:47発、帰りは石見川本14:00発、16:25発、17:48発、20:18発のいずれかを使うしかありません。多少はスクールバスの運行もあるとは思いますが、それでも本数はたかが知れているでしょう。

といっても、粕淵を含め浜原以西の各駅はまだましな方です。浜原より向こうの沢谷、潮、石見松原、石見都賀も美郷町内で、石見都賀には小中学校があるのでこの辺りにも子供が住んでいることは間違いないのですが、ここから川本まで通おうと思ったら行きは石見都賀7:19発、帰りは石見川本16:25発、17:48発しか選択肢がありません。もはや通学の便などほとんど考慮されていないに等しいですし、実際浜原~口羽では高校生なんて乗っていませんでした。都賀にある中学校を卒業した子供たちはどうするのかと思うところですが、川本の高校には寮があるみたいなので、寮生活を送っているのでしょう。

咲の世界の中では、こんなところの高校に通って麻雀の全国大会に出場する生徒がいるんだなぁと思うと感慨深いものがあります。地名を適当にとっただけでしょうが、実際10年前までは高校があったわけですから、もし麻雀の競技人口が10億人もいるような世界だったらこんな場所から全国大会に進んでいたかもしれないんですね。

 

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