中東・ドバイの航空会社エミレーツ航空と、ヨーロッパの大手航空機メーカーエアバスが共同で「エミレーツがA380型機の追加発注をした」と発表しています。
https://www.emirates.com/media-centre/emirates-orders-36-a380s-worth-us-16-billion#
http://www.airbus.com/newsroom/press-releases/en/2018/01/emirates-signs-agreement-for-up-to-36-additional-a380s.html
具体的には、確定発注が20機、オプションが16機の計36機で、総額160億米ドル、日本円で1兆6千億円にものぼる金額となっています。
実は、エアバスは少し前に「A380型機の発注がこれ以上望めなければ、製造を打ち切るかもしれない」という発表をしていました。ので、エアバスにとってこの追加発注は願ってもまたとない機会となっています。とはいえ、その発表があった時点で私個人は「もはやA380なんてエミレーツ専用機みたいなもんだしエミレーツぐらいしか買わないだろうな~」と思っていました。まぁ、逆に言えばエミレーツにとってもA380の製造が打ち切られれば遠くない将来サポートも終了するというわけで、失いたくもないということなのでしょうか。で、やっぱりエミレーツが買う形になりました。
さて、エミレーツ航空を知るには、中東の航空事情を知る必要があります。いわゆる中東の御三家と呼ばれているのが、ドバイを基点とした「エミレーツ航空」、アブダビを基点とした「エティハド航空」、ドーハを基点とした「カタール航空」です。アブダビはアラブ首長国連邦(UAE)の首都で、ドーハはカタールの首都です。ではドバイはどこかというと、アラブ首長国連邦の首都ではない一都市なんですね。とはいっても、「首長国連邦」という通り、UAEはいくつかの小さな国の集まりで(アメリカの州のようなものだと思っていただければわかりやすいでしょう)、ドバイはその一つの首長国の”首都”なのです。中東のこの辺り一帯は都市以外には砂漠しかないという場所で、都市同士の結びつきがそんなに強くなく、それぞれの都市や首長国が独自で大きく発展してきました。なのでもちろん都市間鉄道もなく道路も貧弱、どこに行くにも飛行機を使うしかないような場所で、ドバイ~ドーハを結ぶ航空路線は距離の短さの割りに非常に利用者の多い、お互いにとってのドル箱路線でした(政情の変化で運休してしまいましたが)。
この3社とも日本に路線を飛ばしていて、今ではすっかり馴染みのある会社ですが、日本、アメリカ、ヨーロッパの大手航空会社に比べるとまだまだ「最近大きくなってきた会社」だと言えます。都市自体もそうですが、潤沢なオイルマネーを背景に近年急速に発展してきた航空会社だからです。そしてこの3社に共通するのが、乗り継ぎ利用者を主眼に置いた戦略をとっているということです。
中東のこれらの都市は確かに世界における地位を年々拡大してはいますが、それでもニューヨークやロンドンのように誰もが押し寄せるほどではまだありません。つまり、日本からこれらの都市に行きたいと思って乗る人は、そんなにはいないということです。ではどういった人が利用するかというと、ドバイなどで飛行機を乗り継いで、ヨーロッパやアフリカなどに行く人なのです。
日本からヨーロッパへ行く場合、ヘルシンキやモスクワのような近いところで9~10時間、ロンドンやパリになると12時間ほどかかります。ところが、中東のドバイに行くだけで9~10時間かかり、ドバイからヨーロッパまでの各都市へも更に6時間くらいかかります。乗り継ぎの待ち時間でも1~2時間くらいを要するので、片道の全工程で早くても18時間くらいかかってしまうことになります。そこでその分、運賃を安くしているのです。これは中東の会社に限らず世界中どこでも共通した考え方で、「直行で行ける都市にわざわざ乗り継いでいくと安くなる」と言うことができます(一般的には、ですが)。ほかにも、機内サービスや空港の施設を充実させたりと、様々な工夫で利用者を獲得してきました。
ただの旅行者にとっては、「6時間長くなっただけで航空券がかなり安くなるならその方が良い」と思ってしまうところですが、飛行機の利用者は多くがビジネスマンだったりします(金を使ってくれるのもビジネスマンです)。1時間でも惜しいビジネスマンにとって、乗り継ぎは決して好まれるものではありません。それでも今多くの利用者がいるのは、それだけサービスが良いということの表れでしょう。
また、「元々直行便がない都市」というのももちろんたくさんあります。日本からの場合、南米やアフリカがあてはまりますし、ヨーロッパであっても中小都市にはほとんど飛んでいません。そういった「乗り継いでいくしかない都市(=元々18時間ぐらい乗らなければ着けない都市)」に行く場合、多くの中小都市に就航している中東の会社が優位に立てるのです。たとえば、近年エミレーツ航空はザグレブ(クロアチアの首都)に、カタール航空はサラエボ(ボスニア・ヘルツェゴビナの首都)に就航しました。
さて、そんな事情を背景に拡大していった中東御三家ですが、中でもエミレーツ航空の、ある意味なりふり構わない拡大策には目を見張るものがあります。同社が所有しているのは、ボーイング社製の「777」とエアバス社製の「A380」のみ。どちらも旅客機としては大型機、A380に至っては巨大機とすら言える、総2階建ての世界最大旅客機となっています。しかも、既に96機も持っています(A380だけで)。日本航空がもっている国際線機材が大小合わせて100機程度ですので、いかに馬鹿でかい機材ばかり飛ばしているかがお分かりいただけるでしょう。ちなみに、エティハド航空がもっているA380は8機、カタール航空は7機です。エミレーツ凄すぎ……。
A380は、日本の航空会社はまだ所有していません(ANAがもうすぐ3機導入予定ですが)。日本で乗ろうと思ったら、国際線でしか乗れないのです。一番気軽に乗れるのはアシアナ航空のソウル線でしょうか。私はA380に乗りたくてロンドンに行ったときにカタール航空のA380を利用したのですが、やっぱり大きいですね。といっても、大きすぎて乗っているだけでは全貌をつかめませんでした。分かりやすいのは、横10列の席があるということでしょうか。2階に乗りたいものですが、2階はだいたいどの航空会社もビジネスクラスなので、金のない人は乗れないんですよね……。
機材が大きいということは、それだけ機内サービスを充実させられる余裕があるということでもあります。たとえばエミレーツ航空では、上級クラス利用者向けにバーカウンターを設置したり、ファーストクラス向けにはなんとシャワールームまで設置したりしています。エティハドでは「ザ・レジデンス」という最上級クラスがあり、大きなダブルベッドが置かれています。凄すぎますね。宝くじでも当てない限り私は乗れないかもしれません。いつか乗ってみたいですけどね。
とまぁ長々と書いてきたのですが、私はまだエコノミーですらエミレーツ航空は利用したことがありません……(一番上の写真を撮ったのはカタール航空に乗ったときです)。アルバイト先の大学生で冬休みにヨーロッパに行った人が2人いるんですが、どちらもエミレーツを使ったらしいです(1人はイギリスに、1人はポルトガルに行ったらしい)。こういう乗り継ぎ利用は大学生旅行者にも既に広まっているんですね。いいなぁ~。