私が「鉄道旅行家」の名乗って活動している理由の一つに、「日本の鉄道好きにもっと海外に目を向けてもらいたい」という思いがあります。鉄道好きは数多くいますが、海外に手を出す人はまだまだ多くはありません。私自身も、高校の途中までは海外のことなどさっぱりでした。私の活動を通じて、海外に目を向ける「きっかけ」を作れたらいいなぁ、と思っています。
さて、海外に行かない理由を探るとすれば、興味が無いからというのが大きな理由で、あとは渡航費用が無いから、というのもあると思いますが、「言葉が通じないから」というのは避けては通れない理由なのではないでしょうか。確かに、言葉が通じない不安はとても大きいと思います。
私自身、英語をそこまで扱えるわけではないですし(旅行できる分ぐらいは喋れますが)、何より英語圏以外ではどうするの?という疑問は多いと思います。そこで、「どのくらい英語が喋れればいいの?」「英語圏以外ではどのくらい英語が通じるの?」という疑問を私自身の経験から考えていきたいと思います。
まず、「英語がどれだけ喋れればいいか」という問題についてですが、中にはほとんど使えないのに一人で旅行してしまうようなつわものもいます。ですが、正直それでは不安ですよね。コミュニケーションが取れれば知っている単語の量なんてもはや関係ないとも言えるのですが、ここであえて必要な能力を定義してしまいたいと思います。
それは「入国審査の受け答えができるかどうか」ということです。中にはほとんど審査なしでスタンプを押してしまう国も多々ありますが(それだけ日本のパスポートは強いんです)、イギリスなどのしつこい国はそれでは乗り切れないかもしれません。最低限、答える英語が稚拙でも、何を言っているかは理解できないと厳しいでしょう。「空港にある英語をどれだけ理解できるか」という基準でもいいかもしれませんね。
極論を言えば、イッテQに出演している出川さん、あれぐらいの英語力で十分だと思います。「テレビだから英語ができるスタッフがいる」というのはもちろん当たり前なのですが、あの方ぐらいであれば一人でも乗り切れるでしょう。というのも、単語や文法の問題ではないと思うのです。確かにブロークンイングリッシュというか、番組内で「出川イングリッシュ」と言われているぐらいめちゃくちゃです。日本語すら混じっています。
ただ、私が何を根拠にあれで十分だと言っているのかというと、「伝えたいという気持ち」があるからなんです。別に身振り手振りでも良いんです。英語話者からすれば幼稚園児以下の会話力でも、とにかく顔を見て喋っていれば、不思議なことにある程度は伝わるんです。「いくらですか」「ここに行きたいです」「困っています、助けてください」そういった気持ちを顔や体ではっきりと出すこと、それが「コミュニケーション」だと思います。
ちょっとぐらい英語ができる人であっても、相手の顔を見なかったり自分の気持ちを出さないでいる方がずっと伝わりにくいと思います。「英語が下手だと思われたくない」「間違えたら大変なことになるかもしれない」という気持ちがあると、黙ってしまいがちですが、果たして黙っていて何が伝わるでしょうか……?あとは、頼んだものと違うものが出てきても受け入れられる寛容な心。言葉以上に大切かもしれないですね。
そうやって広い心で積極的に伝えていると、不思議と乗り越えられるもの。英語が通じない国であっても、近くにいる英語ができる人が通訳してくれる、そんな場面は旅をしているとよくあります。私も何度も助けられました。
ロシアで夜行列車に乗っていたときのこと。2人用の個室で、私の入った部屋には知らないロシア人がいました。個室だし、ひとりでのんびりしていたかったな~と最初は思っていたのですが、意外とそうでもないんですね。この列車では乗客に朝食が配られるのですが、どの朝食にするか前日に車掌が聞きに回ってきたんです。ですが車掌さんは全然英語が喋れず。そんなとき、同室のロシア人が拙い英語で訳してくれたのです。「えーと、これはオムレツで、これはヨーグルトで……ジュースはどれにする?えーと、いちごって英語でなんて言うんだっけ、いちご、いちご……そう、ストローベリー!はっはっは!」
降りるときには、その朝食についてきたりんごやジュースを「これ良かったら持っていって」といってもらってしまいました。そのロシア人男性も別に英語が上手かったわけではありません。どれくらいかというと、「Are you need light?(電気消してもいい?)」って言われたくらいのレベルです。もちろん正しい文法なら「Do you need light?」ですが、旅行のためにはそこまでの”正しい”英語なんて必要ないのです。
というわけで、「英語圏以外でどのくらい英語が通じるか」の問題ですが、これはひとえに「その場所にどれだけ外国人が来るか」に比例すると思います。まず、空港やホテルであればだいたいは問題なく英語が通じます。これは逆に日本で考えてみても同じだと思います。日本の空港やホテルも、だいたいは英語が通じますし、中には通じない人もたまにいます。それはほかの外国でも同じこと。
市街に出てみるとこれはもう千差万別。たとえば英語教育がなされていて自国語が英語とあまり離れていないドイツでは比較的多くの市民に英語が通じます。一方フランスなんかでは「英語で聞かれてもフランス語で返す」という人もいたりしますし(最近はそうでもないですが)、首都か地方かでもまた変わってきます。ロシアなんかになってくるとあまり喋れる人はいなくなってしまいますね。年代によるところも大きいと思います。年配の方だと英語を学んだことがないという人も増えてきます。
フランス南部のマルセイユに行ったときのこと。地下鉄の駅で1日乗車券を買ったのですが、カードの調子がおかしかったらしく、改札機にタッチしても何も起こらなかったのです。それで変えてもらおうと思って買った窓口に行き「When I touch at the machine, no reaction!」と言って助けを求めたところ、カードの交換にあたって手続きが必要だったらしく、紙に名前を書かされました。そのとき手続きを部下の人と交代したのですが、上司の人と違って英語が使えないらしく「私英語話せないけどどうすればいいの?」「名前書いてもらうだけよ」という会話をフランス語でしていました(恐らく)。で、私が「my name?(ここに名前を書けばいいの?)」と聞いたところ、「my~♪ name~♪ is~♪」と鼻歌を歌われてしまいました。だいぶ馬鹿にされたような感じでしたが、まぁ日本でもそんなもんですよね。どこ行ってもあんまり変わらないです。
意外だったのは、地方や小国の駅やバスターミナルでも国際線のりばであれば英語が通じたこと。イタリアのトリエステのバスターミナルや、スロベニアのリュブリャナ駅、セルビアのベオグラード駅で国際バス・列車のきっぷを買ったのですが、正直来る前までは町の大きさや治安の面でもあまり期待していませんでした。もちろん英語もそんなに通じないかな~と思っていたのですが、意外にも普通に通じてしまうんですね!
トリエステのバスターミナルでは「もうこのバスすぐ出るけど大丈夫ですか?」「良いです、チケット出してください!」「すみません、やっぱりもう行っちゃってました……次のに変えられますか?」「わかりました、安くなるので差額返金しますね」とかいう会話を英語でしてました。
リュブリャナやベオグラードでも、どっちも夜行列車を使おうと思いきやその日は走っておらず、「夜行列車ってないんですか?」「今は夜行列車走ってないんです。行けるのは明日の朝ですね。」と英語でやりとりしてました。どちらの窓口も国内列車と国際列車で分かれていたのですが、少なくとも国際線窓口では(出発地も到着地も英語圏ではないですが)普通に英語が通じました。旧ユーゴスラビアも今ではだいぶ快適に旅行ができるようになっています。
これがまた東南アジアだとか南米だとかになってくると事情が変わってくると思います。中国なんかでも大都市と地方でかなり差があるでしょうね。
ただひとつ、総じてどこへ行くにしても忘れないで置いてほしいこと。それは「挨拶だけは現地語を覚えていく!」ことです。コミュニケーションしたい気持ちがあれば伝わるとは書きましたが、コミュニケーションを円滑にするための一番の武器、それは笑顔と挨拶です!そして、英語で「Thank you!」というよりも、ドイツなら「Danke!」、フランスなら「Merci!」、ロシアなら「Спасибо!」と言う方が圧倒的に気持ちが伝わります。日本でも、「アリガート!」と言われると受け取る気持ちがちょっと変わりますよね。それと同じです。
「おはよう」「こんにちは」「こんばんは」「ありがとう」「お願いします」このくらいは行く先々の現地語で言えるようにしたいところですね。