自分の「生きがい」は何?”コミケを経て気が付かされたこと

(前回のつづき)

私が目指していた場所、それは、開始から1時間であっという間に完売してしまうようなサークル、もっといえば最後まで延々と人が途切れずずっと多くの人に囲まれているようなサークルでした。今の私は、買ってくれるお客さんに決して恵まれていないわけではありませんが、夢見ているような大人気サークルではありません。

販売を経て、それらと私との違いに気付かされました。私が10時台に販売したのはたった2冊だったのですが、その一方で数百部を売ってしまったサークルもあります。その後、私のサークルは徐々に販売部数を伸ばしていくのですが、どうして10時台にはほとんど売れなかったのでしょうか。

コミックマーケットの会場に10時台に入ることは、実は容易ではありません。何時間も前から数万人にも及ぶかという待機列が形成されており、10時に始まったからといってすぐに会場内に入れるわけではないのです。私も一般参加者として何度か並んだことはありますが、始発で行っても日程や場所によっては10時台にいけるかどうか怪しいレベルです。特に企業ブースの初日ともなれば、会場内に入ったとしてもそこから各企業ブースの列で更に2時間待つようなことも起こります(私が参加したときに比べれば最近は少し落ち着いてきたようですが)。最前列で待っていたとしても、その先にサークル参加もしている購入者(サークルチケットは1組あたり3枚出ます)が並んでいたりするので、競争はなかなか厳しいものとなっています。

つまり、10時台に会場に来ている人たちは、始発列車で5時台に来てそこから5時間待ってでも早く会場に入りたい人だったり、サークル参加の仲間として同業の活動をしている人たちだったりするのです。私の売っている本に、寒い中、もしくは暑い中5時間待ってでも欲しいほどの価値があるかといえば、残念ながらそうだとは言えません(そもそも書店やAmazonで売っている本を販売しているんですけどね)。別に最優先でなくても構いません。2番手、3番手と後々に回るサークルであっても良いのですが、残念ながらそうではありません。

とはいえ、委託で後日通販される本もたくさんあります。私が見ていた人気サークルもだいたいそうです。ですが、後で簡単に帰るはずなのにそれでも欲しいと思う人たちがたくさん来ているのです。「一刻も早く手にして実物を見たい」と思っているからかもしれませんし、「すぐに売り切れて通販もやらないかもしれない」と思っているからかもしれません。あるいは「直接売っている本人に会ってみたい」と思っている人もいるでしょう。

残念ながら、私はそのどれにも当てはまりません。今すぐ手にしたいと思われるものを売っているわけではありませんし、売り切れもしませんでした。そもそも私自身が全知られていません。直接の知り合いや以前どこかでお会いした方で来てくれた方たちは何名かいましたが、一目見たいと思って来てくれるような方(私が知らない方)は残念ながらいませんでした。

しかしその一方で、「前作(2016)が良かったからまた来た、次(2018)は出しますか?」という方もいました。そしてなにより、たまたま通りかかって気にかけてくれた人が多くいました。それは私にとってとても誇りに思えることです。

というのも、私が目指しているようなサークルも、1時間ばかりですぐに完売してしまいましたが、仮に在庫をその6倍にして、6時間販売したとしても売り切れることはないと思います(それでも売り切れるようなサークルはいわゆるよほどの”大手”か、もしくは企業レベルのことをやっているサークル、それか叶姉妹の方たちのような元々有名な方です(私もそれぐらい有名になりたいとは思っていますが))。

私の販売傾向は、最初と最後が少なく真ん中(12~13時)頃が多めになっています。人気サークルが6倍の在庫を用意したら、最初(10~11時)が極端に多く、徐々に下がっていくような傾向になると思います。途中からはあまり売れないということもありえると思います。どういうことかというと、「来たいと思って来ている人は早い時間に集中して、その人たちがみんな来たらあとは減っていく」ということです。

仮に、前情報が何もない場所で、作者の情報を伏せて本を販売する機会があれば、私の本を手に取っていただける方は多いと思います。それだけ質が高いということ、それは自信を持って言えます。それが「たまたま通りかかった人が何人も買ってくれた」ということです。ですが、そうはいきません。一言で言えば、「場違いだった」ということです。では販売する場を変えるかというと、そういうつもりもあまりないのです。私はあのような場で大人気になることを夢見ていたのです。

 

さて、「生きがい」の話に戻します。今まで、私が「好きだ」と思っていたこと、それは鉄道のことを知ったり実際に旅に出たりすることで、それが得意なことにも繋がっていると思っていました。けれど、コミックマーケットを経て気付かされたのです。

私が好きなことは、「人に好かれて人気になること」だったんだと。

それに気付いて、少し気が楽になりました。今までは、「どうして今の自分はあの人たちのように人気じゃないんだろう」「どうして今ツイッターのフォロワーが何万人どころか300人すらいないんだろう」「どうして今誰にも知られていないんだろう」そんな風に思っていました。朝目が覚めたら何万リツイートもされている、そんな夢見ていたことは今までずっと全く起こる気配がありません。

今すぐ今日この時点で人気であること、とにかく今の自分が売れていること。それが欲しくて、だからこそそれでずっと頭を抱えていました。けれど、私の好きなこと、「人気になること」は「そこに辿り着くまでの過程」も含まれていたのです。

最初から人気である人なんてそうそういないでしょう。生まれたときからずっと多くの人に知られている人なんて、王族とか天皇家の人たちぐらいでしょうか。そんな人たちが羨ましいですね。残念ながら私はそうではありません。誰だって最初は0から始まる、それは頭では分かっていたことでした。

けれどそれが自分にとっての好きなことだと気付いて、正面から向き合って、ようやく受け入れられるようになったのです。これまで、今すぐ人気ではない自分を否定していました。ですが、大人気に至るまでの過程も含めてやりたかったと気が付いて、今人気がない自分のこともまた楽しめるようになりました。

さて、前回最初にあげたベン図を見てみましょう。好きで、得意なこと、鉄道旅行をする中で多くの人から注目されることができれば、それは私にとっての「情熱」です。

鉄道や旅行に関する記事を書いたり、メディアに出演して解説したりしてお金をもらうことができればそれは私にとっての「専門」です。

世間が必要とすること、趣味やエンターテイメントの世界でそれは難しいことです。農林水産業や製造業、あるいは公務員の仕事と違って趣味はなくても生きていけますからね。ですが、豊かな国では娯楽を求める人も増えてくるでしょう。趣味に関する書籍や番組が世の中から求められるようにもなります。「文章を書いたり解説したりする力」が稼げることだとすれば、世間から必要とされていることは「その文章や解説が必要になる場が生まれる」ということでしょう。つまり、出演や執筆の”機会”そのものです。それが「天職」になります。

そして、私が好きで、しかも世の中から必要とされていること。これはとても難しいです。なぜなら「人気になること」そのものだからです。「〇〇さんが書いた文章を読みたい、撮った写真を見たい、講演で話を聞いてみたい、直接会ってみたい」そう思われれば、それは「必要とされていること」です。そして、私が好きなことも、「書いた文章を読まれたい、撮った写真を見てほしい、講演で話を聞いてほしい、会ってみたいと思われたい」です。それが私にとっての「使命」です。そうありたいと思っています。

3つ重なっている場所もみてみましょう。誰も必要としていないけれど、好きで、得意で、稼げること。残念ながら、これは私にとってはないかもしれません。というのも、趣味の世界では必要とされていなければそもそも仕事にならず、稼げません。

好きではないけれど、得意で、稼げて、必要とされていること。人気には繋がらないけれどお金になること。原稿料がもらえる執筆の機会があったとしても、それが自分の名前を出せる媒体だとは限りません。たとえば、トラベルライターとしてガイドブックに載せるための文章を書いたり写真を撮ったりする仕事。そういった仕事もしたいと思っていますが。ガイドブックにライターの名前が載ることは普通はありません。人気を上げることには直接は繋がらないでしょう。

得意ではないけれど、好きで、稼げて、世間から必要とされていること。私にとっては言ってしまえばアルバイトです(それ自体はあまり好きではありませんが)。残念ながら今私はアルバイトなしではとても生活できません。そこでやっている業務は確かに世間が必要としていることです。そして、好きか嫌いかと言われれば、何もかもが嫌いだというわけではないのです。最初東京に来たときは接客なんて好きになれそうもないと思っていましたが、今になってみると意外と嫌いでもないことに気付かされます。即売会で自分の本を売ってみても思い知らされます。仕事が全般的に好きかと言われればむしろ決してやりたくなんかないんですけどね。しかも凄くたくさん稼げるわけではないですし。アルバイトからそのまま正社員になればよりあてはまるでしょうか?

好きで、得意で、必要だけれど稼げないこと。これもまた難しいですね。自分で好きなように趣味に関する本を書いて、ファンをちょっと増やして仲間内で人気になったとしても稼ぎには繋がりません。と言ってしまうのは言い過ぎでしょうか。どうやら、私にとって好きなことと必要とされることは強く結びついていて、必要とされていることと稼げることもまた強く結びついていて、切り離しにくいようです。

では、それら4つが重なる場所、私にとって、好きで、得意で、稼げて、必要とされること。

私にとっての、「生きがい」とは何なのか。

つづく

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